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【1月23日】文化と地域デザイン講座を開催しました。【参加報告】

 1月23日、第9回文化と地域デザイン講座を開催いたしました。前回に引き続き、研究所スタッフ・関谷が参加報告をお届けします。


 今回の講座は、毎日新聞社の横田美晴記者(『点字毎日』編集次長)をお招きして、「点字新聞のつくり方 -取材・編集・読者-」を演題にご報告いただきました。


 毎日新聞社から発行されている『点字毎日』は、国内で発行されている唯一の点字新聞です。講座報告では、横田記者から、製作工程・歴史・点字新聞ならではの記事執筆など、「点毎」にかかわる様々な事情が紹介されました。さらに、研究所・松本茂章とのリプライ・参加者との質疑応答では、文化芸術と文化政策の切り口から多彩なやりとりが行われました。



火曜日に発行される点字毎日(右)と木曜日に発行されるタブロイド活字判(左)


制作工程――


 毎日新聞大阪本社に編集部を置く「点毎」は、取材・記事の執筆から、印刷製本・発送までの工程全体が、毎日新聞の朝夕刊とは独立して行われています。紙面の校正には触読者が関わり、記事を点字の情報で伝えるための紙面制作が徹底されています。また、視覚障害を持つ人にかかわる人たちにも情報を届けるために、活字版も発行されています。


紙面づくり――


 一般報道の記事のほか、視覚障害者の活躍、障害福祉や社会課題の特集、テクノロジーの紹介(歩行支援アプリなど)、音楽、防災体験といった、視覚障害者に向けた記事が基本に据えられています。


 なかでも、横田記者にとって全盲の同僚記者の存在は、意識していなかった・できなかったケアの在り方や、文化体験に気づくきっかけだと言います。実際に、本紙夕刊に掲載された記事「「危険踏切」綱渡り」(佐木理人記者)が、ネット配信で大きな反響を呼び、行政の対応に結びついたことも紹介いただきました。


☛「「危険踏切」綱渡り 4月、奈良・全盲女性事故死 点字ブロック、摩耗していた 対策主体、グレーゾーン」,毎日新聞,2022-7-22,毎日新聞デジタル


文化芸術とのかかわり――


 編集部員が直接に読者との連絡を担う双方向のやり取りのなかで、横田記者は読者の文化欄への反響を強く感じると言います。紙面には、演劇や音楽のイベントをまとめた「情報フォーラム」や「点毎映画案内」といった欄が設けられています。また、最近まで「ユニバーサル・ミュージアムな仲間たち」という連載も掲載されていたそうです。紙面を読ませていただくと、こまやかに情報がまとめられているように感じました。



横田記者(左)と松本とのリプライ

 リプライ・質疑応答では、会場全体で議論が交わされました。


 最初の論点は、博物館と視覚障害者について。亡くなった彫刻家の作品の寄贈先を探すなかで、視覚障害当事者からの熱烈な手紙が見つかる……という点毎記事を呼び水に、美術品に「触れる」ことが「見るもの」としてはじまった美術の見直しにつながるということや、視覚障害に対して博物館展示(とくに科学系館)のストーリー性は担保できているのかという問いかけなどのコメントが挙がりました。


☛「特集 彫刻の受け入れ先を探して ~神奈川・故中村宏さんの120点~」,点字毎日,2023-10-15,毎日新聞デジタル


 このあと、論点は公共施設と合理的配慮へと移ります。ここでは、劇団員やキュレーターの小回りが利く施設とそうでない施設との違い、機械的な合理的配慮の問題点、障害者の図書・情報へのアクセス条件の不足などのコメントが挙がりました。


 このほかにも横田記者の報告をうけて、あるいは参加者同士の相互作用のなかで、たくさんの反応が寄せられました。


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 今回の講座では、点字新聞のつくり方を知り、さらに点字文化から文化・芸術の在り方について議論しました。今までの講座は、場所や地域の課題・将来像にどのように取り組んでいるのかをお聞きする回が多かったので、今回は文化そのものをより深く掘り下げる回になりました。


 横田さんのご報告のなかで、点字毎日に芸術(活動)の情報を求める読者が多く、実際に読者からの文化欄への反響が大きいというお話がありました。

 文化とはきっと、受信と発信、摂取と表現の両面があってこそ、わたしたちにとって大きな意味を持つのだと思います。

 今回のテーマだった点字と「文化」。ふたつのキーワードを聞いて、すぐに思い出したことがありました。それは、ハンセン病と「舌読」です。東京の国立ハンセン病資料館の展示室には、手指の感覚を失ったのち、舌先で点字を読む入所者を写した写真パネルが設置されています。その写真は読むことへの思いの強さを、見る者に印象付けます。点字の手紙もやりとりされていた/されているそうです。

 このことからは、過去と現在、そして点字文化についてのヒントを得ることができるのではないでしょうか。ハンセン病の隔離政策の時代と現代との決定的な違いは、強制隔離の有無にあります(1922年発刊の点字毎日はその過渡を見守ってきたということになります)。しかし、それは精神的な隔離や疎外がなくなったことにはなりません。

 文化も同じ状況にあると言えそうです。摂取と表現の方法へは、誰もが等しくアクセスできるようになっているのでしょうか。答えはきっとNOです。今回の質疑応答が盛り上がったのは、これまで議論がなされていなかった、環境整備がなされていなかった裏返しなのでしょう。これから共生社会についてもっともっと議論を重ねていく必要があると思います。


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 点字毎日の発刊には視覚障害者の情報保障という目的がありました。以上を踏まえれば、横田さんの「『点字』は、そのものが『一つの文化』」・「『点字文化』の一翼を担ってきた点毎、それが原動力」という言葉はとっても説得力があるように感じられます。今回得られたことを活かして、もっと具体的な「文化と地域デザイン」を考えていけたらいいなと思います。


横田さん、貴重なご報告ありがとうございました!



文責:関谷洸太(大阪市立大学・学部生)

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